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ローズカット ダイヤモンド クロス

作品名 ローズカット ダイヤモンド クロス
制作年 1660年頃
制作国 未詳
制作者 未詳
素材 ゴールド、エナメル、ダイヤモンド

作品説明

ローズカットをはじめ様々なカットとサイズのダイヤモンドをふんだんにセットしたゴールドのラテンクロス。主軸と横木の各先端は、黒と白のアカンサス葉飾りのフレームの中にそれらのダイヤモンドをクラスター状にまとめて強調されている。裏側には、キリストの受難にまつわる24の品々が、ブラック、ホワイト、ピンクエナメルで描かれており、上から下に次のような順番で配されている。

1.キリストの腕と脚を十字架に打ち付けた3本の釘。
2.「ユダヤ人の王ナザレのイエス」を意味するラテン語略「INRI」の刻印。王を自称するキリストを嘲笑するために十字架の先端に釘で打ち付けられたものである。
3.聖ペテロがキリストに付き従うものの一人であることを否定した時にときを告げた雄鶏。
4.兵士たちに鞭で打たれた際、キリストが縛り付けられた柱。
5.王を自称するキリストを嘲笑うために彼の頭に載せられた茨の冠。
6.キリストの死を確認するために脇腹に刺された槍。
7.キリストが水を求めたときに与えられた、酢に浸した海綿。
8.キリストが柱に縛り付けられた際に兵士たちが振るった鞭。
9.キリストを十字架に釘付けするために使った金槌。
10.ポンティウス・ピラトが手を洗った水を満たした水差し。彼がキリストの試練とはもはや関わりたくないということを、そして「この人物だけはその生命について」あずかり知らぬということを意味する。
11.聖ペテロが大司祭の召使いであるマルクスの耳を切り落とした剣。
12.受難の前に、棕櫚の主日にキリストがロバに乗ってエルサレムに入城する際、群衆の一人が振った勝利の棕櫚の葉。
13.キリストを十字架に釘付けする時に、そして死んだキリストを降ろす時に兵士が使った梯子。
14.最期の晩餐でワインを聖別するために使われた聖杯。
15.キリストが十字架から降ろされる時に使われた釘抜き。
16.擦り減っているものの、恐らくはキリストへの裏切りに対してイスカリオテのユダに与えられた銀30枚の入った袋。
17.夜、庭でキリストが逮捕された時に一人の兵士が持っていた提灯。
18.キリストが纏っていた長衣。兵士たちが自分のものにしようとキリストから剥ぎ取った。
19.その長衣を誰のものにするか決めるために兵士たちが投げたサイコロ。
20.聖ヴェロニカが十字架を背負って運ぶキリストの顔を拭ったヴェール。それにキリストの顔が映し出された。
21.密告されたキリストが庭にいる時、逮捕しようとやってきた男たちの一人が掲げていた松明。
22.王を自称するキリストを嘲笑するために、杓に似せて手に持たせた葦の茎。
23.聖ペテロが件で切り落としたマルクスの耳。キリストはそれを元通りに戻した。
24.釘付けされて孔のあいたキリストの手。聖ヴェロニカのヴェールの下の耳と手の間には、イエスの名前を意味するイニシャル「IHS」が記されている。

解説

ロバに乗ってエルサレム入城から十字架に架けられ、埋葬されるまでの、キリストの地上における生の最期の出来事を象徴するこれらのシンボルは、受難の品々と呼ばれ、キリストが耐え忍んだ苦痛の特別な様相を伝えている。クロスの裏側は非常に豪華に装飾されているが、身に着ける人だけに分かるように描かれたこれら受難の品々は、痛ましい悲劇の忘れえぬ記念品であり、キリストが為したように、あらゆる困難に直面してキリスト教徒としての生き方を守るべくその人を鼓舞したであろう。受難の品々は初期の信仰的なジュエリー、特にクロスに見られるが、この作品に用いられた不透明エナメルの技法は、白地に豊かな色彩を直接施すことを可能にし、それ以前よりもはるかに多くのものを描けるようになった。
様々なカットは、ルネサンスジュエリーの旧式のポイントカットやテーブルカットの制約から、17世紀のダイヤモンドカッティングの技術の進歩を窺わせる。アカンサスの葉飾りと花は、制作年代が1660年頃を示すものであるが、ダイヤモンドのセッティングにゴールドを用いている点もその証拠である。
この壮麗なクロスの大きさと品質は、ローマカトリック教派の高位の人物のために製作されたことを示すものだが、文書による記録がないためにフランスかスペイン、もしくはオーストリアのいずれかを特定することは出来ない。現存する17世紀のジュエリーでは最も傑出した作品の一つであることは間違いなく、大英博物館およびヴィクトリア&アルバート博物館のコレクションにも、これに比肩する作品は皆無である。

ダイアナ スカリスブリック