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聖ヒエロニムスのジュエリー

作品名 聖ヒエロニムスのジュエリー
制作年 1660年頃
制作国 フランス(推定)
制作者 未詳
素材 ゴールド、エナメル、ダイヤモンド、シルバー

作品説明

ゴールドとシルバー、エナメル、ダイヤモンドのペンダントの楕円形の縁飾りには、異なった形とサイズのローズカットダイヤモンドがパヴェセッティングされ、聖ヒエロニムス(ジェローム)の八角形のプラークを枠取っている。聖ヒエロニムスは半裸で、十字架上のキリスト像を奉った祭壇の前の砂漠で罪を悔いている。自らの胸をうつために手に石を持ち、腕を髑髏の上に置き、その傍らには獅子が座している。同じレリーフがペンダントの裏側からも見ることができエナメルで描かれた果実と花の縁飾りで枠取られている。ボウノットの提げ環の表の面には、ローズカットダイヤモンドがセットされ、その裏側にはエナメルでリボンが描かれ、リボンは5弁の花のところで交わるようになっている。

解説

この注目すべきジュエリーは、17世紀ヨーロッパの歴史の多くの局面と結び付けられている。
宝飾芸術という点に関する限り、これはエナメル技術の美しい実例であるというだけでなく、当時がダイヤモンドの時代であるということをはっきりと言明するものである。というのは、フレームもダイヤモンドが豪華にパヴェセッティングされ、集合的に用いられて中央のプラークを光輪で囲んでいるからである。こうした効果は今やファセットを施す技術が進歩したお蔭として可能になったもので、そのためにローズカットダイヤモンドは、ロベール・ド・ベルカンによって『東洋と西洋のインドの驚異』(パリ刊、1661年)の中で「あらゆる貴石の中の真の太陽」(自らが太陽さながらに輝く唯一の貴石)と書かれている。
同じく最も素晴らしい17世紀のジュエリーの特徴となっているのは、具象的な中央のプラークの両面だけでなく、裏側の葉や花にもエナメルが施されている点で、これらはルイ14世のお抱え、テオドール・ル・ジュジュによって出版されたダイヤモンドジュエリーのためのパターン、『葉型装飾と金銀細工の本』(パリ刊、1660年頃)と比較できる。それは17世紀における植物への情熱を象徴するものだが、ルイ13世によってパリに植物園が設立されたのも17世紀であった。
ヒエロニムスのプラークに関しては、この敬虔さのイメージは着用するひとのローマカトリックへの帰依を宣明するものだが、当時は、16世紀の宗教改革の困難な時期の後に、ローマ教会が今やその布教活動に自信をもち、新しい教会や女子修道院、男子修道院を建設した時代である。ローマカトリックの国々には聖ヒエロニムス(340-420AD)に捧げられた学校や病院があるが、偉大なキリスト教徒の学者としての、そしてウルガタ聖書として知られる聖書のラテン語版への翻訳者としての彼の偉大な功績を讃えたものである。シリアの砂漠での彼の禁欲的な生活によって示された手本は、17世紀を通して多くの男女の聖職者がこれに倣ったが、聖ヒエロニムスはそこでの4年間を、ヘブライ語を学ぶだけでなく、このプラークに描かれているように肉体と悪魔からの誘惑と闘って過ごした。したがって、彼の手中にある石は彼自身の胸を打ち、その罪に対する自らの悲しみの証として身体を傷つけるためのものである。腕の下の髑髏はメメントモリで、これもまた17世紀の人々になじみのあるものである。彼らは絵画や彫刻、ジュエリーの中に髑髏と骸骨が見えていることを歓迎したが、それはこれらのシンボルが生は神聖なる死への準備であるという彼らの信念を思い起こさせるものであったからで、神聖なる死は戦争やコレラ、その他の災害によって苦しめられた時代にあってはいつでも訪れる可能性があったからだ。
聖ヒエロニムスの傍らに座す獅子は、彼の献身的な友である。獅子の肢から棘を抜いてやったことをきっかけに、ふたりは砂漠での長い年月を共に過ごすこととなった。聖ヒエロニムスは「友はサソリと野生の獣のみ」と遺している。
このジュエリーが反映しているのは、その時代における人生の様々な局面、すなわち偉大なローマカトリックの聖人に向ける崇拝と死への覚悟、花への熱狂、ダイヤモンドの大いなる声望であるが、ダイヤモンドはこの時代に供給が増加しつつあり、ファセットを施す技術がより早い時代のポイントカットやテーブルカットよりも多くの光とファイアを放つこととなる。
いかなる公的なコレクションの中にも、これほどの宗教的性格と品質を備えたジュエリーはほかになく、この作品はそれだけで偉大な発見といえる。H.バリによる「ダイヤモンド展」(2000年パリ、2002年ローマ)においても、またJ.ワルグラーヴによる「輝きの時代:17世紀のダイヤモンドジュエリー展」においてもこれに類したものは一切なく、M.バンベネ・プリヴァ著『17世紀フランスの金銀細工品』(パリ刊、2003年)における最新の調査においても比肩するものは含まれていない、実に稀少な作品といえる。エナメルで鮮やかに彩られた聖人の彫刻の精微さとダイヤモンドのフレームの壮麗な輝き、裏側の植物装飾の魅力が結びついて、この作品を、バロックの宮廷芸術の高貴さと華麗さをミニアチュールの世界に映しとった傑作にしている。

ダイアナ スカリスブリック